解離という言葉はとても難しい言葉だと思うのですが、そもそも解離というのはどういう状態なのか、お話をします。一般的に私達の記憶や意識、知覚、自我同一性(アイデンティティ)は普通一つにまとまっているのですが、解離というのはこのような感覚をまとめる能力が失われた状態を言います。具体的にはどういうことを解離状態かというと、過去の記憶の一部が抜けてしまったり、知覚が一部感じなくなる、あるいは感情が麻痺するということです。これは健常人においてもよくあることです。ただ、これらの状況がさらにエスカレートすると、とん走のような異常行動や多重人格障害といった新たな人格形成などが起きたりします。これらも健常人において一時的に発生することがあります。解離性障害は、これらの症状が深刻で、生活に支障をきたす状態のことを言います。どうしてこのような状態が起きるのかというと、ストレスや心的外傷が関係していると言われています。この心的外傷については、様々な辛い体験によるダメージ、例えば災害や事故などの一過性のものによるものや性的虐待、長期間の監禁状態、戦闘体験などから避けるため、精神が緊急避難的に機能の一部を停止させることが解離性障害の原因と考えられています。

解離性障害の症状

解離性障害には様々な症状があります。主な症状について下記の通りリストアップします(世界保健機構の診断ガイドラインICD-10による)。
・解離性健忘:心的ストレスをきっかけに出来事の記憶をなくす症状。
・解離性とん走:自分が誰かという感覚がなくなり、失踪して新たな生活を始めるなどの症状。
・カタレプシー:体が硬く動かなくなること。
・解離性昏迷:体を動かしたり言葉を交わしたりできなくなること。
・離人症:自分が自分であるという感覚がなくなること。
解離性てんかん:心理的な要因で、昏睡状態になる、体が思うように動かせなくなる、感覚が失われるなどの症状。
・多重人格障害:患者は複数の人格をもち、それらの人格が交代で現れます。人格同士はしばしば、別の人格が出現している間はその記憶がなく、生活上の支障をきたすことが多くなります。
また、これ以外にヒステリー性運動失調症、ヒステリー性失声症、解離性運動障害、失立、心因性失声、心因性振戦、解離性痙攣、憤怒痙攣、解離性感覚障害、心因性難聴、神経性眼精疲労、ガンサー症候群、亜急性錯乱状態、急性精神錯乱、心因性もうろう状態、心因性錯乱、多重人格障害、反応性錯乱、非アルコール性亜急性錯乱状態なども解離性障害の一種です。

解離性障害の治療について

解離性障害の治療の基本は、次の3つです
・安心できる治療環境を整えること
・家族など周囲の人の理解
・主治医との信頼関係
です。
ここで大事なことは患者が安心できる環境を構築することです。これは、解離性障害の主な原因は心的なストレスによるものであるため、解離されている心の部分は安心できる関係性でしか表現することが出来ないからです。
一般的には解離性障害の症状の多くは、ある程度の時間を経過することで自然に解消されるか、別の症状へ移行します。よく解離性障害が発症した段階で催眠や暗示などで治療をするということもありますが、これは解離性の健忘や、失立、失声、麻痺等を解消することは効果が期待できないだけでなく、逆に解離性障害の症状を悪化させることもあります。そのため、治療をする際にはまず安全な環境や自己表現の機会を提供しながら、それらの症状の自然経過を見守るという態度も重要になります。

また、治療者も解離性障害については全般的に十分な知識を持って患者やその家族に接することが大事です。解離性障害は心理的な疾病なので、理解がないと認識してしまうと、症状が悪化させてしまう事になりかねません。そのために治療者はもちろん家族も患者の症状を理解し、それを受け入れるということが大切な態度です。また、薬投与による治療は今のところはないとされています。